うめきた2 期地区開発事業「グラングリーン大阪」のコンセプトを探る
【出席者】 有本慎太郎氏(三菱地所株式会社うめきた開発推進室 主事) 姜同徹氏(阪急阪神不動産株式会社うめきた事業部 課長) 先行開発区域“グランフロント大阪”のその後 有本慎太郎氏(以下有本 敬称略)2013 年4 月にうめきた先行開発区域の開発“グランフロント大阪”がオープンし、今年の2023 年で10 周年を迎えます。 何もない貨物操車場に開設して以来、5年間で2 億5000 万人もの来場者が訪れるなど、大阪駅前の顔となる街として、新たな人の流れを生み出す開発となりました。 オフィスだけでなく、インターコンチネンタルホテルや商業施設、住宅、ナレッジキャピタル等、複合的な施設であり、またソフトの面でも一般社団法人グランフロント大阪TMO(以下TMO)というエリアマネジメント組織を立ち上げ、賑わい形成や公共空間運営管理などが行われています。 TMO によって毎年のシーズナルなイベントも数多く取り組まれており、プロジェクトとして一定の認知度とブランディングを形成出来たのではないかと思っております。 今後は、「みどり」を中心に計画している2 期地区開発事業により、うめきた全体のまちづくりを更に伸展させ拡大させていきたいと考えています。 うめきた2 期地区開発の方向性 有本 基本的には先行開発区域で培ったブランディングをベースに2 期地区開発事業を進めていますが、今までと大きく違うところは、単に民間施設の開発ではなく、4.5ha の都市公園というパブリックスペース(公共空間)を公民連携により整備し、管理運営していく点です。 民間施設ではできない都市公園としてのパブリック性も生かした、国際競争力強化にも資する多様な非日常イベントを開催・誘致したいと考えており、ハード面においては雨天時にも対応可能な大屋根イベントスペースもつくります。 また、日常のプレイスメイキングとしての賑わい形成についても、アメリカのブライアントパーク*も参考にしながら、様々なソフト企画について深度化を図っている途中です。(*本誌No146 号特集パークマネジメント52P 参照) 民間敷地においては、先行開発区域にはナレッジキャピタルというインキュベーション機能がありますが、2 期では1 期よりもより一層産官学の連携に重点をおいたイノベーション施設を整備・運営する予定です。 また、2 期地区開発ではホテルも外資系を含む3 タイプを開設します。 うめきた外庭スクエアの取組 梅田スカイビルの足元に、UR 都市機構の所有する土地を1000 日間暫定利用する形で、2 期地区開発に向けた屋外空間の管理・利活用のためのトライアルを実施しています。 例えば什器類などの使いやすいベンチや椅子、また耐圧に強い芝生などのトライアル実験を行っています。 通常公園は市民を中心に利用されるものが多いと思いますが、うめきた2 期地区は大阪の駅前という都心立地であり、「みどり」と「イノベーション」の融合拠点の形成がまちづくりの目標としても掲げられていることから、to C (市民向け) という機能以外に、to B(企業向け)という機能も併せてその両面で考えていく必要があるという点がこの都市公園の一つの特徴ではあると思っています。 例えば、様々な企業や研究機関等が都市公園で実証実験を行ったり、企業の取り組みをより一般市民に向けて対外的にアピールできる場として使えるような仕組みを構築できないか考えています。 その中で、うめきた外庭スクエアで運営パートナー制度という仕組みについてトライアルしています。 企業の方に外庭スクエアを利用いただき、来園者に対して例えば自社製品を活用したWell-being やアートなどの市民QOL向上に資するようなイベントを実施して頂きつつ企業価値向上にも繋げて頂く、また来園者からのフィードバックを貰いた新技術の改善等に活かして頂く。その様な実証実験を通じて企業の方に使っていただく運営パートナー制度を2 期地区のトライアルとして実験しています。産官学によるイノベーション創出やまちづくりは他でも取り組まれているかと思いますが、そこに公園に訪れる一般市民もプロセスに参加頂いて新たな価値を生み出したり、市民側としても新たな取組に気軽に触れられるという経験ができるのは、大阪駅前の都市公園と言ううめきた2期地区開発ならではの特徴ではないかと思います。 事業者としての役割とは 有本 私共うめきた2期開発事業者JV 9社(三菱地所、オリックス不動産、阪急電鉄、竹中工務店、積水ハウス、関電不動産開発、大阪ガス都市開発、うめきた開発特定目的会社(出資者:大林組)、 三菱地所レジデンス)は、2017 年12 月のUR 都市機構による事業コンペ募集への応募を経て、2018年5 月にコンペ提案書を提出し、2018 年7月に選定されました。 公園以外の民間宅地部分を事業者が取得し、上位計画の「みどり」と「イノベーション」の融合に沿って建物計画やランドスケープ計画の詳細の立案を進めました。 事業者としては、収支・スケジュール管理、行政協議、竣工後の管理運営計画策定、プロモーションなどの基本的な部分を行いつつ、建築設計については主に日建設計、三菱地所設計に基本計画・基本設計・実施設計を担って頂きました。 またランドスケープ部分についてはアメリカ・シアトルのランドスケープアーキテクトGGN にデザインリードという形で参画頂き、本計画の特徴である「みどり」の魅力的な整備に向け、緻密なデザインを提案して頂きながら進めました。 例えば、都市公園の上に、施設を設置しようすると大阪市所有の土地ですので設置許可申請が必要になりますが、そのような民間宅地開発では必要とならない数多くの協議や手続きも事業者JV として実施しています。 民間所有地の施設は、土地・建物所有者としてテナントリーシング・管理などの業務が出てきます。 公園の施設(建物)についても、同じように建物所有者として同様の業務を行っていきます。 公園の園地部分の管理は、大阪市の方で指定者管理制度の導入が予定されており、2 期事業者は指定管理者候補者として位置付けられています。 2 期事業者の方で中長期的に亘り管理を行っていくために、マネジメント組織の設立も予定しています。 エリアマネジメント・パークマネジメントのスキーム・財源の検討について 有本 グランフロント大阪の事業では、道路の部分を対象に、日本で初めてBID(Business Improvement District)制度を導入していますが、2 期地区においても道路部分や都市公園のランニングコスト、つまりは財源をどう生み出していくかを検討している所です。 通常であれば、行政の指定管理代行料を原資に充てていくのが一般的ですが、今回は代行料なしで、資金捻出を事業者側で行うという前提でコンペが実施されており、指定管理候補者として選定されています。 基本的には、公園施設の賃料やイベントスペースの貸し出し料等を充てていくわけですが、それだけでは足りませんので、足りない分に関しては民間宅地の所有者たる2期事業者JV で負担していくことになりますが、中長期的な持続可能性も鑑み、一部はこの公園のサステナビリティ等の理念に共感頂ける企業からの協賛金等の外部収入も上手く活用しながら、運営しくようなスキームについても検討を重ねています。 外部収入としては、公園の一部の区域では大阪市による寄付金制度が既に用意されている他、前項で触れたうめきた外庭スクエアでトライアルしているような運営パートナー制度をベースに、この公園が目指す理念に共感頂ける企業様を対象として共にこの公園を利用し支えて頂けるような仕組み作りも、大阪市と協議して取り入れていきたいと思っています。 まさにその辺りの考え方は、アメリカのブライアントパークも参考にしています。 ブライアントパークの場合は、元々治安が悪かった場所を、BID 制度によって維持管理費等を賄い、環境改善したところに端を発しているマイナスからのスタートという歴史があるので、操車場であった土地にほぼゼロベースで計画するここの計画とはやや成り立ちは異なりますが、優良イベントの誘致やイベント等に資本投下しブランディング形成に成功してからは、外部のスポンサー企業から協賛も原資に運営されており、外部が支え、それを運営法人が更に魅力化に投資するという好循環が生まれています。アメリカと日本では寄付に対する価値観も異なるので、チャレンジングな取組となる可能性もありますが、海外の好事例も参考にして、制度設計を具体化していきたいと思っています。 デザインリードとしてのGGN さんの参加について 有本 この計画は、関空と直結するゲートウェイ立地としての国際的なプロジェクトという認識の元に、コンペ時からGGN に計画の「みどり」のデザインにおいて中心的な立場=デザインリードと言う形で深く関わって頂いています。 GGN が日本、大阪、うめきたという立地を歴史や文化もリサーチして紐解きながら再構築していく部分は非常に興味深く、ダイナミックさや繊細さにいつも驚かされますが、それらのアイデアをどう実際の設計に落とし込んでいくかという部分を中心に、日建設計と三菱地所設計がタッグを組んでサポートして頂いてます。 姜同徹氏(以下敬称略)GGN とは何度も打合せを重ねていますが、デザインの実現に向けた意思の強さや、与えられた業務の範囲にとどまらず、計画全体がより良くなるためにどうすべきかといった意見を積極的に発信いただける姿が印象的です。 高質かつ大規模な緑の整備と一体となったこの開発の成功によって、大阪における緑の普及のモデルケースになることを願っています。 ランドスケープアーキテクトに期待すること 姜 パブリックスペースの価値が見直されている状況下で、そこに携わっているランドスケープアーキテクトの方たちには、きれいで整然としたランドスケープデザインだけでなく、今まで以上に、滞在したくなるような親しみやすさや心地良さを作り出すにはどうしたらよいかに目を向け、魅力的なデザインを生み出していただきたいと思っています。 有本 近ごろ注目されているSDGs 達成の観点でも、ランドスケープは世界的な地球環境問題や生物多様性の課題に貢献出来る要素が大きいものと感じています。 また、最近では私たちよりも若い世代がサステナビリティやエシカルといった価値観により敏感で、自然と培っている方が多いと聞きますが、その様な新しい世代が実際に自然に触れたり学べる環境を都心で計画することは、持続可能な社会を世代を超えてつくっていくうえでも重要なのではないかと感じます。 その様な点でランドスケープアーキテクトの活躍領域は更に広がっていくのではないかと期待しますし、このプロジェクトがきっかけとなり、この分野が更に発展していくことを期待しています。…